- 投稿日
- 2018年12月17日
- 更新日
パワハラで精神疾患(うつ病・適応障害)になったら解雇されてしまうのか。
上司のパワハラがきつくて最近憂うつさが抜けない。でも、自分の評価に響くかもしれないし、休ませてもらいたいなんて言おうものなら辞めてほしいと言われかねない。このまま仕事を続けるべきか、でももう体は悲鳴を上げ始めている。自分がうつや適応障害といった精神疾患にかかるなんて思ってもいなかった、周りにどう思われるのかわからないので絶対に内緒にしておきたいと思う方も少なくないかもしれません。心の病は回復が長引いてしまい完治しているかどうかわかりづらいのも特徴です。もし上司に知られてしまったら解雇されてしまうのでしょうか。
【パワハラで精神疾患になったら解雇される?】そもそも解雇とは
会社を辞める形として、自己都合による退職かあるいは自己都合ではない形の退職なのかに大別されます。解雇とは会社から一方的に労働契約を解除することを言います。パワハラ上司から「もう明日から会社に来なくていい、お前はクビだ!」と言われた際に解雇は成立するのでしょうか。
結論から言ってしまえば、即日に社員を解雇することは容易ではないということになります。会社が労働者との労働契約を解除することは労働者の生活の基盤を揺るがすことになりますから、労働者とその家族が路頭に迷う事があってはなりません。民法では、期間の定めのない雇用契約については、原則として解約の2週間前までの意思表示を示していますが、解雇については、民法ではなく労働基準法によって修正が加えられています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法627条1項)
解雇をするには、厳しい基準が設けられていて、この基準やルールにしたがって活用されないと解雇をする権利を濫用したとして無効になるケースがあります。
1.解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であると認められる」必要がある。
「ノルマが達成できないからクビ」「1回遅刻したからクビ」などを仮に就業規則に定めていたとしても社会通念上相当と認められないと判断されるような場合は無効となります。パワハラ上司から言い寄られたとしても、そのような解雇通知に素直に従う必要はありません。もっともその上司にどこまでの人事権が与えられているかは不明ですので、人事やその上の上司に相談する必要があります。
2.「解雇予告」又は「解雇予告手当」が必要
解雇予告とは、解雇をする日の30日前までに解雇の予告をすることです。例えば、11月20日に解雇の予告をすれば、解雇を予告した日の翌日(11月21日)から起算して10日後の11月30日が解雇日と設定すれば20日分以上の解雇予告手当が必要になります。
3.業務上の疾病や負傷のため休業している期間と復職後の30日間は解雇できない。
パワハラが原因でうつと診断され療養しているようなケースでは、療養期間中と復職後すぐには解雇できないことになります。但し、3年の療養期間でも回復しない場合に会社は平均賃金の1200日分を支払う事によって解雇制限の縛りがなくなります。
4.傷病補償年金を受け取ると解雇制限が外れる。
また実務上は、打切補償がされることは少ないようで、労災保険で給付を受けているケースでは療養の開始から1年6ヶ月を経過しても回復しない場合は休業補償として受け取っている給付から「傷病補償年金」が支給されることになります。傷病補償年金を受け取ると打切り補償がなされたものとして扱われ、解雇制限の縛りがなくなり解雇が可能になります。
休職制度があるのに利用しないで行った解雇は無効にできる?
パワハラにより心に病み、療養が必要になれば会社を休まざるをえません。会社としては仕事をしてもらえない社員には辞めてもらいたいと思うところかもしれませんが、ここですぐに解雇とすることは社会通念上相当とは判断されません。
会社の休職制度は、一時的に労働ができない社員に休息を与えることで再び職場に復帰できるようし、労働者にとって生活が脅かされないために社会的に必要とされている制度です。判例では、休職制度が就業規則に定められているにもかかわらず、利用させずに解雇をした事例を無効と判断しました。(日放サービス事件東京地裁判決昭和45年2月16日)
本件では、定期的な健康診断や休職規定、能力や適性に応じた職場異動に関する規定が就業規則におかれていました。会社が定めた労働環境下で労働に従事できない病状にあった場合には配置転換をするか休職規定を適用させるのが適切な措置であるとしています。
では、このような規定を置いていない場合は、休職させることなく解雇してもいいのでしょうか。休職規定は労働基準法で定められた規定ではなく会社独自の制度になりますから争いがあるところだとは思いますが、労働基準法は、最低限の労働条件を定めたものですから、労働者の利益になることを会社の権限で付与することは問題ないと思います。
パワハラで社員を解雇するのは労働基準法違反か
では、パワハラによって社員を解雇するというのは労働基準法違反にあたるのでしょうか。これまで見てきたように客観的な合理的な理由に該当するのか、あてはまったとしても社会通念上相当であるかによって判断されます。但し、大前提として会社はどのような場合に労働者を解雇できるのかを就業規則に定めている必要があります。
労働基準法89条3号では、就業規則の記載事項として退職規定を設けなければならず、解雇に関する規定も含むとしています。裁判例では仕事をするために必要な能力が技術の欠如や適格性のなさを客観的に合理的な理由として認めているものの、それがパワハラという行為によってなされたものであれば社会通念上相当とは言えません。解雇は適切な手続きにのっとって段階を踏んで行われる必要がありますので無効になる可能性が高いでしょう。
うつで欠勤が続くのであれば解雇もやむなしか?
一定の休職期間を経て、会社が労働時間の短縮や業務量の調整など復職へのサポートを行っても休職を繰り返してしまう、仕事を継続するにあたって著しく支障がある場合には解雇も仕方がないかもしれません。そうならないためにも、休職規定があればしっかり活用し心身を充分に休ませることが必要です。
それには、会社や上司のサポートが欠かせないわけですが、残念ながら会社も無制限にサポートしてくれるわけではありません。このようなときに力になってくれるのが様々な社会保障になります。この点については改めてご案内させて頂きます。
正社員ではない有期労働者の場合に解雇は適用されるのか。
正社員の場合と違い、有期労働者である契約社員やアルバイトの場合はどうでしょうか。労働契約法では、「やむを得ない事由」があれば契約期間途中であっても解雇ができるとされています。
労働契約法17条1項
使用者は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
契約期間中に精神疾患で体調を崩し職場を休むことになり、それが長期に続くようであればこの「やむを得ない事由」に該当する可能性が高いと言えます。有期労働契約の解雇手続きについても予告期間が設けられているか就業規則を確認してみましょう。
まとめ
・解雇は客観的に合理的な理由があったとしても社会通念上相当でなければならず、パワハラで解雇を言い渡すのは不適切
・心の病で体調不良になったら休職制度を利用し焦らずに療養する。
・パワハラが原因でうつになったら、労災保険の給付や傷病補償年金など利用可能な社会保障制度を利用する。