- 投稿日
- 2018年9月5日
- 更新日
医者から「仕事を与えないのもパワハラ」との指摘に衝撃
【まったく仕事を任せてもらえない】呑気に思っていた私がうつになった
アットホームで和気あいあいとした職場という素晴らしい環境に馴染めず、思わずすがった病院の先生に「それパワハラだよ」と言われ、目から鱗が落ちたのは29歳のときでした。 当時の職場は不動産業。昔ながらの小さな会社で従業員は十人以下、ほとんどのお客様が顔なじみという気楽な雰囲気の職場です。
少人数だからこそ、事務職といえども契約更新の手続きもするし、仕事に関する資格の勉強にも身が入るなかなか面白い環境でした。その上、従業員の8割が女性。ほとんどの方が成人したお子さんがいらっしゃるような、人生でも会社でもベテランといった方たちばかり。最初のうちはずいぶん可愛がってもらえました。
やれ旅行先のお土産だとか、やれ家で作りすぎた煮物だとか、やれ大量に売っていたお漬物のおすそ分けだとか…その可愛がり方はまさに近所の子が遊びにきたおばさんそのもの。最初のうちは「いいところだなあ」なんて呑気に思っていた私がうつになったのは、可愛がられつつもまったく仕事を任せてもらえないままとうとう2年目に突入したあたりからです。
無能感にさいなまれ次第に職場で追い詰められていく私
たまたま私しか事務所にいなかったから、と社長が新しい仕事を振ってくれました。関わったことはあるけれど、一からしたことはない仕事だったので「これでまたできることが増えるぞ!」と私はわくわくしていました。 ところがその後、帰ってきた先輩の一人がその仕事を持っていってしまったのです。「あなたには難しくて可哀そう。社長ひどいわね、私がやっておいてあげる」 という言葉とともに。
それからも、何かというと「あなたには難しいから、私がやっておいてあげる」といって様々な仕事から遠ざけられるようになっていきました。 これまでやらせてもらえていた仕事も「やったことないでしょう?だから他の子にやってもらおうね」といって、これまでの実績はなかったことに。 主だった先輩方みんながみんなその調子。口では「ごめんね、また今度チャンスあげるからね」と言いながら、チャンスが巡ってきたことはありませんでした。
私何かやらかしてしまったかな、何か重大な失敗でもしてたのかな。と、なまじ罵倒されるわけでも、明らかな嫌な態度をとられるわけでもないからずいぶんと悩みました。悩む間にもだんだん仕事はなくなっていき、ついには日がな一日椅子に座っているだけの日々に。試しに一日中ヤフーニュースを端から読んでいきましたが半日も潰せません。もちろん仕事がないことは伝えています、何かやらせてくださいと再三提案もしますが、そのたびに「あなたには無理、難しい、そんなことしなくていい」の三拍子。
そして彼女たちは、私から仕事を全部取り上げて自分でやりながら、忙しいつらいしんどい、と私がいる場所で口に出すのです。 それなのに、相変わらずお土産だの食べ物はたくさんもらえて、毎日おやつまでくれるあり様。次第に私は、私には何もできない、私が無能なんだ、私明日もやることがない、職場に行きたくない、みんな優しい人なのに苛々している私はおかしい、と追い詰められていきました。
「優しいパワハラ」と思うと、楽になった。
もうすぐ30歳の誕生日なのに将来どうなるのだと、憂鬱さが爆発して飛び込んだ病院で聞かされたのが「仕事を与えないのもパワハラの一種」と指摘を受けたのです。 そのときの私の驚きといったら…ずっと私が悪いのかと思っていましたから。お茶くみや洗い物さえ取り上げられるのを感謝しなければならない立場だ、文句を言ってはいけないと思いこんでいたのです。
当時の不眠や休日の過ごし方から、うつになりかけていると診断をもらえた私ですが、どんな処方よりもこのときの「パワハラ」という言葉が一番のお薬でした。ですから先輩がたを通り越して、仕事をくれるよう社長に直談判することにしたのです。 相手は働き手が欲しくて私を雇ったわけですから、機嫌よく仕事を任せてくれるようになり、この対策は大成功を収めました。
それでも、先輩方はやはり私から仕事をとろうとしたり「可哀そうですよ社長」と謎の可哀そうアピールで私に仕事をまわさないようアドバイスしていましたが、あれもそれも「優しいパワハラ」だったのだと思うと、以前に比べて受け取り方も変わりました。 毎日朝起きて「今日も何もすることはない」と思いながら会社に行くのはとても辛いことです。
その辛さは周囲から理解されがたく、能力がないせいだろうと思われがちです。代わりに仕事を引き受けてくれる人を悪く言う人だっていません。悪者は、仕事ができなくて、仕事をやってくれる先輩に感謝もできない私一人。そうやって無能感ばかり膨らんで、うつに追い詰められてしまうことがあるのだと今回よく実感できました。
あれから仕事はもらえるようになっても、私を無能扱いしようとする人がそばにいるかぎり、この無能感と戦わねばならないのだなと思うと途方もないことに思えて結局職場は辞めてしまいました。おかげであの頃のうつがぶりかえすことはなく、今は元気ですが、それでも時折あの頃の無能感がこみあげてくることがあります。うつが治っても、そのころ受けたネガティブな感情は一生心に残ってしまいますから、自分を不当に扱う人からはすぐにでも距離を置くべきだなと、今ではしみじみと思います。